植物がただ、そこにあるだけで。

雑誌、書籍、広告など多方面で活躍するフードスタイリスト、つがねゆきこさん。「植物は、スタイリングの仕事においても欠かすことのできない大切な存在です」と話す彼女は、普段植物とどのように付き合っているのでしょう。家族4人+猫2匹で暮らすご自宅に伺い、お話を聞きました。

グリーンが空間を仕切るアクセントに

 

 郊外の閑静な住宅街にあるつがねゆきこさんのご自宅。ご長男の誕生もあり、それまでの手狭なマンションから、6年前に戸建ての注文住宅に移り住みました。が、その裏ではご夫婦でちょっとしたせめぎ合いがあったそう。

「引っ越すことには賛成だったのですが、私自身は古めのマンションのリノベーションに興味があったんです。一方で夫は新築戸建てにこだわっていたので、そこでバトルです(笑)。最終的に“ハコ”は戸建てにするとして、その内側の空間づくりに関しては、私の自由にさせてもらえることで一件落着となりました」

 陽の光がたっぷり入るLDKには、つがねさんの仕事を象徴するように、オーダーメイドの大きなアイランドキッチンが。その奥にダイニングテーブル、ソファ、さらにつがねさんの作業スペース兼お子さんのお勉強スペースと、シームレスに空間が展開され、そのところどころにグリーンが上手にあしらわれています。

「シェフレラなど存在感のある観葉植物は窓際を中心に並べています。ハンギンググリーンがいくつかあるのもこの部屋の特徴かもしれませんね。つるが伸びていくホヤのような植物は、低いところに置くとうちの猫たちがじゃれてしまうのもあって。グリーンを天井から吊るしているんですが、空間をやさしく仕切ってくれるという効果もあります」

生活環境もインテリアもフラットな雰囲気に

 

アンティークが大好きだというつがねさん。部屋づくりにあたっては、新しい建材が用いられた住宅に、いかに古いものをミックスさせるかにこだわったそう。

「古民家やヴィンテージマンションだと、もとの柱や壁を生かしてアンティークの家具をなじませることができるんですが、新築だと難しいんですよね。そこで古いものと新しいものの間にあえて無機質なものを挟むことで、全体のバランスを取ろうと考えたんです」

そのバランスを担っているのが、前出のアイランドキッチン。新しさや古さを超越したヘアライン加工のステンレス製キッチンが、この洗練された空間を成立させているポイントだったのです。さらに最近では、リビングに変化を加えるべく新しいダイニングテーブルを迎え入れたのだとか。

 

「アルテック90Aというダイニングテーブルで、おととい届いたばかりなんです。自然素材でできていて独特の風合いがあるリノリウム天板のテーブルがいいなと思い、アンティークのものを探していたんですが、なかなか見つからなくて。仕方なく『自分で使いながらアンティークにしよう』と現行版の新品を購入したんです」

ラウンド型のテーブルにすることで生活動線がスムーズになったと、早速気に入っている様子のつがねさん。このタイミングでダイニングテーブルを変えたのには、何かきっかけがあったのでしょうか。

 

 「それまでは無垢材を用いた木目の強いテーブルを使っていたんです。でも仕事と子育ててバタバタすることも多い中、『もう少し生活環境をフラットにしたい』と思うようになりました。そこで、アルテックのように使い勝手がよくて長く愛されている、シンプルな家具に惹かれはじめたんです。たぶん、今の自分の心境にフィットしているのはこっち。“この子”を大切に育てながら、まわりのインテリアも少しずつフラットな雰囲気に変えていければと考えています」

無難な生活から、フードスタイリストの世界へ

 

 雑誌や広告に掲載される「食の空間」をディレクションしていくフードスタイリスト。部屋づくりとも共通点のありそうな仕事ですが、つがねさんがフードスタイリストを目指すきっかけは何だったのでしょう。

「もともとは“無難に生きたい”と思っていたタイプで、大学卒業後は金融機関に新卒で入社して働いていました。仕事にもまわりの人間関係にも恵まれ、不自由なく生活ができていたのですが、あるときフードコーディネーターの学校があることを知ったんです。ずっと料理を作るのは好きだったものの、仕事にしたいとは思ったことがなかった。でも料理を“見せる”という仕事は、なぜか面白そうだなと思ったんですよね」

 

 早速、昼は会社員として働きながら、スクールで半年間のカリキュラムを受講。そして卒業する頃にはもう、会社を辞める決心をしていたのだといいます。

「ずっと無難がいいと思っていたので、あの決断は今でも不思議なんです(笑)。とはいえ、アシスタントからスタートし、徐々にいろんなご縁がつながって、気づけば今までずっとフリーランスとしてやってこれました」

植物は空間にリアリティを与えてくれる

 

フードスタイリストとしての活動のほかにも、フォトグッズ専門ブランド「&MERCI」を立ち上げて商品開発も行うなど、日々多忙を極めるつがねさん。がむしゃらに働き、家にはほとんど寝に帰るだけだった20代後半に比べると、今では生活の中で“癒し”を求められる余裕が少し出てきたといいます。 

「この家に移ってからは部屋の緑も増えましたね。私にとって植物は、動きや色を通じて空間にいい風を通してくれる存在なんです。最初はウンベラータしかなかったんですが、シェフレラを迎えたり、ハンギングを取り入れたり。そうやってグリーンを増やしながら、自分なりの気分転換をしているんだと思います」

フードスタイリングの仕事においても、植物の存在はとても重要な役割を担っているそう。

 

「テーブルに料理を並べて、そのまわりの空間をアレンジしていく。当然私がつくっているのは撮影のための“ニセモノ”の食事空間なわけです。でもその中に植物を入れると、不思議とその空間が“ホンモノ”に見えてくるんですよ。植物にとっては、そこがニセモノの空間だろうと、本当の生活空間だろうと関係ありません。ただ好き勝手に育ってくれているだけで、その場を生き生きとさせてくれる。だから私にとっては、仕事においても普段の生活においても、植物は大切な存在なんですよね」

グリーンに囲まれた居心地のいい暮らし。コーヒーを丁寧に淹れたり、ケーキを食べながらお話をしたり、猫たちと戯れたり。ふとした瞬間に、つがねさんらしい心地いい空間と時間のスタイリングを感じられるのです。