“好き”と“物語”に包まれた植物との暮らし方。

雑誌や広告のイラストのほか、ロゴ制作やフライヤーのグラフィックも手掛けるイラストレーター/グラフィックデザイナーの三宅瑠人さん。「植物は子どものころから身近にありました」と話す彼のアトリエ兼自宅にお邪魔し、植物との暮らし方を見させてもらいました。

違和感から生まれる面白さ

 

瑞々しく描かれた葉脈と、対象物をほんのりと照らす光――。三宅瑠人さんが手がけるイラストを眺めていると、その緻密さのなかに日常にそっと佇むようなやわらかな世界観と心地良さがあります。

「イラストを描くときに気を付けているのは、かわいくなり過ぎないようにすること。そもそも僕はかわいく描くことが苦手なんですが、完璧すぎるものより、どこか違和感があるものの方が好きなんです」

そう話すのは、イラストレーターでありグラフィックデザイナーとしても活躍する三宅瑠人さん。そんな彼のお気に入りは、今から50年以上も前にスウェーデンやフィンランドで発刊された図鑑たち。図鑑とはいうものの、そこに出てくる植物や動物はすべてイラストで描かれているのです。

「現地の言葉で書かれているので、何が書かれているのかはわかりませんが、よく見るとイラスト同士の縮尺のバランスがちょっとヘンだったり、印刷がズレていたり、発色がおかしかったりもする。この時代ならではのおおらかさというか、完璧ではないからこその美しさみたいなものがある気がするんですよね」

家族から影響を受けたクリエイティビティ

 

三宅さんはご両親ともにデザイン関連の仕事をしていたそうで、お兄様は現役のミュージシャン。ご自身も大学在学中にインターンとしてデザインやイラストを制作しているうちに、直接仕事の依頼がくるようになりそのままフリーランスの道へ。今や日本だけでなく海外からも依頼がくるなど引っ張りだこですが、三宅さんの根底にはやはりご家族の影響があるようです。

「たぶん、僕の8割ぐらいは家族の影響でできています。植物は母の趣味もあり当たり前のように家の中にありました。鳥も子どものころから家族で飼っていたから大好きで、作品のモチーフにもなっています。今飼っているのはサザナミインコでダイアンと名付けているんですが、僕が他の人と話をするとものすごく嫉妬するんですよ(笑)」

入り口すぐの場所に鎮座するのは、お母様からもらったという年季の入った作業机。聞けば、かつて警察署長の机として使われていたものらしく、その机を起点に植物がいくつも配置されています。

フィカス、コウモリラン、シダなど種類も豊富でリビングにあるものも含めるとその数なんと20以上。一見無造作に置かれているようにも見えますが、植物1つ1つが集まってゆるやかな群れとなり部屋全体を包み込んでいるようにも感じました。

「以前住んでいたところは、もっと植物が多かったです。今は日当たりがあまりよくないので日照時間が少なくても育つような植物を選ぶようにしています。植物選びで気を付けているのは、部屋のなかが楽しくなりすぎないようにすること。南国の植物を入れると部屋の雰囲気はがらりと変わりますし、日本の植物であればまた違ったテイストになるからです」

ひとつひとつに物語のあるインテリア

 

三宅さんの話を聞いていると、アトリエ兼自宅に置かれているものは、そのどれもが自身のお気に入りであり、ストーリーのあるものばかりだということに気付かされます。図鑑やお母さまからもらったというテーブルもそうですが、イタリアの古道具屋で見つけたという雑貨や、奥さまが暮らしていたデンマークの部屋に飾っていたドライフラワー、弱っていたゴムの木を元気にするために試行錯誤したLEDのプラントライトなど、「これは?」と尋ねると、必ず何かしらの答えが返ってくるのです。

好きなものに囲まれた暮らしと、そこから続く物語。日常を心地よくするためのヒントは、もしかしたらそういうところにあるのかもしれません。