ハレとケと、植物と。

梶谷圭亮さんと奈允子さんは、「建築家」と「フラワーデザイナー」というご夫婦揃ってのクリエーター。それぞれ違った感性を持つ梶谷さんご夫婦は、普段どのように植物と付き合っているのでしょうか。閑静な住宅街の一角にあるご自宅にお邪魔して、建築や暮らし、そして植物のことについて話を聞きました。

植物がおうちの空気を良くしてくれる

 

梶谷圭亮さんと奈允子さんは、建築家とフラワーデザイナー。お二人の肩書から華美なご自宅をイメージしていましたが、お部屋の中は驚くほどシンプルです。もっとも主張しているのが、大きなフラワーベースに入れられたドウダンツツジで、この家のシンボルツリーのような存在になっています。

「ここに入れている植物は、季節によって変えています。これで2カ月目ぐらいかな。頻繁にお水を変えなくていいのでお手入れもラクなんです。春だとアセビ、冬は雲竜柳などを入れることが多いですね」

そう話すのは奈允子さん。もうひとつ階段脇に吊られているのがナンキンハゼ。彼女の「ここに吊るしたい」というオーダーに対し、圭亮さんが白く塗った木材を壁と天井の隙間にはめ込み、そこから透明の糸で吊るすことで形にしたそう。壁を傷つけないためのアイデアです。

「植物選びは感覚ですね。植物がここにいるだけで家の中の空気の流れが良くなる気がするんです。手がかかるのは大変だけど、何もないと寂しいですから」(奈允子さん)

リビングから見えるテラスの植物はコウモリラン。これも手がかからないという理由でのセレクトなのだとか。アトリエにあるお花を持って帰ってくることもあるそうですが、あくまでここは生活の場。過度な装飾はしないのだそう。

長くつかえるものを選べば接し方も変わってくる

 

イスやソファなどは大阪の「TRUCK furniture」のもので、そのほかはアンティークショップで購入したり、圭亮さんがデザインした家具や白樺の木で手づくりしたりと様々。唯一のルールは「2人が気に入ったものだけ」を置くこと。

「あとは、できるだけ長くつかえるものを選ぶように心がけています。何度も何度も買い替えてムダにお金をつかうのではなく、高くてもいいから長くつかいたい。買い替え前提で買うのと、ずっと長くつかおうと思って買うのとでは、ものへの接し方もきっと変わってきますよね」(奈允子さん)

 

「僕がモノを捨てられない性格なので、どうしても貯まってしまうんです。だったらずっとつかえるモノの方がたまらずに済むかなって(笑)」(圭亮さん)

おうちのなかに「ハレ」の場所を

 

おふたりに暮らしを楽しくするためのヒントを聞いてみました。

 「好きなモノに囲まれていた方が、きっと毎日が楽しいはず。私なんか単純で、ヨーグルトを食べるときのカトラリーがお気に入りだったらそれだけで気分があがっちゃう。シソとかミニトマトを育てているんですが、お料理にちょっとつかうだけでも幸せになれたりしますから」(奈允子さん)

「僕にとって自宅は、一番気楽に過ごせる何も考えなくていい場所なんです。ひとつだけこだわっていることがあるとすれば、家の中にも「ハレ」と「ケ」をつくることでしょうか」(圭亮さん)

 

圭亮さんいわく、仕事で個人宅を設計するときなども「ハレ」と「ケ」は常に頭の片隅に入れているそう。

 

「家の中すべてが「ハレ」の場だとどうしても息苦しくなってしまいます。いっぽうで全部が「ケ」だとそれはそれで味気ない。だからどこか一ヵ所でもいいのでおうちの中に「ハレ」の場所をつくるんですよ」(圭亮さん)

すべてが完璧である必要はまったくない

 

梶谷さんのご自宅でいえば、テーブル前の椅子に座ったときに見える景色が「ハレ」の場所。実際にそのポジションに座らせてもらうと、そこからシンボルツリーのドウダンツツジが眺められ、テラスの先には空が見える“ハレの場”であることがわかります。

「完璧にデザインする必要はまったくないんです。部屋のある一部分だけ自分好みの空間があれば、毎日はすごく豊かになるんです」(圭亮さん)  

 

「植物はそういうハレの場をより彩ってくれる存在なのかもしれません。なんてことのないワンルームでも、植物がひとつあるだけで豊かな気持ちになれますからね」(奈允子さん)

 

好きなものに囲まれ、長くつかいたいものを選び、そして、どこかひとつ「ハレ」の場所をつくる、梶谷さん流の暮らしのアイデア。ご自宅にいる時間が長い時も、ほんのちょっと工夫するだけでおうち時間がさらに豊かになるかもしれません。