人やモノやコトをすべてつなげて“BEAMSそのもの”をプロモーションする、コミュニケーションディレクターの土井地 博さん。ファッションだけにとどまらず、出版や音楽、アー トイベントなど多方面で活躍する土井地さんですが、普段はどのように植物と接しているのでしょうか。ご自宅にお邪魔して植物との暮らし方を伺いました。
引き算のインテリア
都心にある閑静な住宅街の一角。この日訪れたのは、BEAMSのコミュニケーションディレ クター、土井地 博さんのご自宅です。玄関に入るとほんのりと漂う木とアロマの香り。2階のリビングにある両側の窓からはやわらかな日差しが差し込み、天井の高さと相まって開放的な空間をつくりだしています。
「この家を購入したのは2年ぐらい前。我が家には双子の娘がいるんですが、一緒に暮ら している間に家を買いたいと思っていたんです」 土井地さんのご自宅のコンセプトは、最初から100点を“目指さない”こと。子どもの成長、 家具の配置変え、趣味趣向の変化。最初から完成させるよりも、そのときの状況や気分に応じてアップデートしていくという考え。
「そもそも僕がものすごく凝り性なので、いきなり100点はまず無理だろうと思っていたんです(笑)。あとは完成されたピカピカの家って、あんまり好きじゃなくて。だから経年変化を楽しめるように、手すりはあえてグレーの塗装のままにして金属の質感を残したり、 床もちょっとしたテクスチャが味わえるタイルを選びました」
リビングには前の家からつかっているというお気に入りのソファーがあり、テレビ台の脇には、蚤の市で見つけたというレトロな金属箱が。お皿やカップ、花器は、地元・島根の焼き物など土井地さんならではのアイテムが並びます。
「基本的に自分がいいと感じたものを選んでいるので和洋折衷ですね。小物類は出張先で買ってくることがほとんど。金沢で買ったものだったり、海外で見つけた旧西ドイツのアンテ ィークだったりと国もエリアもバラバラなんです」
家そのものにも思わずうなずいてしまう工夫が。2Fに光を入れるために3Fのベランダの床にグレーチングを設けたり、キッチンはあえて段差をつくって低くすることで、目の前のカウンターに座った人との目線をあわせるようにするなど、ちょっとした遊び心と楽しく過ごすためのヒントが散りばめられているのです。そして何より特徴的なのは、両側の窓にカーテンがないこと。
「カーテンがあると生活感がどうしても出てしまうので、最初からレールもつけていません。その代わりに、ベランダには常緑樹のヤマボウシを置いて目隠しにしているんです。カ ーテンがあるとベランダのグリーンも見えなくなりますしね」
どこのおうちにもある当たり前を無くすことで生まれるすっきりとした雰囲気。こうした “引き算のインテリア”にも土井地さんのセンスが表れているのです。
源泉はとめどない好奇心
土井地さんがこの業界に入ったのは、大学在学中にビームスのショップスタッフのアルバイトをしたことがきっかけ。大学4年生のときに採用試験を受けてそのままビームスに入社したのですが、半年経ったある日「君は面白いから東京に来ないか」と社長と副社長に声をかけられ上京することになったのだとか。
「そこからはずっとPRですね。20年ぐらいはやっていたと思いますよ。モノの良さを伝える仕事はもちろんですが、人と人をつなげてプロデュースをするというようなことをずっとやっていました」
たとえば今では当たり前となった音楽イベントへの協賛や他業種とのコラボ、また、ビームススタッフのライフスタイルを描いたフォトブック『BEAM AT HOME』も実は土井地さんが仕掛けたもの。
「音楽はもっとファッションと融合する時代がくるんじゃないかと思って、音楽イベントの協賛を思いつきました。アート、食、メーカー。コラボするジャンルや業種はまったく決めていなくて、『あのとき楽しかったよね』ってそのとき関わってくれた人みんなに言ってもらえるのが理想の姿ですね。ほら、仕事ってやらされるのはつまらないじゃないですか (笑)」
そんな土井地さんのアイデアの源泉は、色んなものへのとめどない興味とそれを色んな角度から見る視野の広さにあるように感じます。
「アイデアマンだってよく人から言われるんですが、僕はただ色んなことに興味があるだけ。これとこれをつなげたらどんな化学反応が起きるんだろうとか、そういうことを考えるのが面白いんです」
年間通しておうちの中にグリーンを
そんな土井地さんのご自宅には、玄関、リビング、テーブルと至る所に植物が。グレビリア、 ジョンエバンス、オリーブ、ビルベリー、アカシア、スノイーンサマー、エアプランツ、そしてドライフラワーや生花など。植物のセレクトは奥様の恵理子さんと一緒に見に行って購入することが多いのだとか。
「家具選びと同じぐらい植物選びは大切にしていて、年間通して家のなかに必ずグリーンがあるようにしています」
土井地さんが暮らしの中で大切にしているのは、余白と違和感だそう。
「なんでもかんでも詰め込むのではなく、余白をいかに楽しむか。植物って生活を共にできる相手でありながら、暮らしの余白を調整してくれるものでもあるんです。植物そのものの大きさや成長の仕方によって高低差ができたりするのも楽しいですね。
もうひとつは違和感です。言葉で説明するのは難しいんですが、うちにあるレトロな金属箱がそのひとつ。キレイな建物のなかにポツンとそれがあるだけでそこから物語が生まれるんです。植物もあえて統一感を意識するのではなく、鉢や植物の個性で気に入ったものが中心です。
今の時代、1ブランドですべてをそろえる人ってあんまりいないじゃないですか。何をチョイスして、それをどこに置くか。家具や植物選びってある意味で編集作業だし、その過程も含めて楽しいですよね」
PROFILE
土井地 博(どいじ ひろし)
ショップスタッフを経て、20年以上BEAMSグループの宣伝PR業務を行う。現在はグローバルアライアンス部長としてグローバルプラットフォームを持つ国内外の企業や組織、ブランド、人などと次世代に向けた新たなビジネスモデルを構築している。ラジオパーソナリティーの他、大学非常勤講師、司会業、各講演など仕事は多岐に渡る。