緑のある暮らしを彩る、小さなサプライズたち。

27歳でオープンしたファイヤーキング専門店「DEALERSHIP」を皮切りに、コンセプチュアルな雑貨店を計4つも手がける井川雄太さん。「ここ数年、北欧のヴィンテージ花器にはまってしまって」と語る井川さんのご自宅に伺い、ヴィンテージアイテムと緑に囲まれた暮らしをのぞかせてもらいました。

ヴィンテージのコーヒーメーカーに切り花を

 

雑貨店を営む井川さんのご自宅は、都内の閑静なエリアに立つヴィンテージマンションの一室。北欧のヴィンテージチェアが出迎える玄関から、すでにご自身のお店にも通ずる心地いい空間が広がっています。あえて低層階を選んだのは、窓からの季節の移ろいを楽しみたいからだそう。

「以前は駅近のマンションに10年住んでいました。部屋は5階にあって、窓からグリーンが全く見えないことが少し不満だったんです。その間、仕事で北欧に足を運ぶたび、自然の近くで生活している人がたくさんいて『いいなぁ』と憧れていました。次に住むなら緑に囲まれた環境の低層マンションにしたいと思っていて、4年ほど探し続けてようやく見つけたのがこの部屋なんです」

リビングの窓からは、敷地内にたっぷり植えられた緑だけでなく、隣にある神社の豊かな木々も借景となって望めます。そしてこの大きな窓を生かし、日中はブラインドを全開にして過ごしています。

「北欧のマンションはカーテンが開けっぱなしの部屋が多いんですよ。季節によって、日照時間が短いので明るいうちにたっぷり光を浴びたいからだと思うんですが、家の中を隠そうとしない感じが素敵だなと思っていて。たぶん彼らって、外から見られたときのインテリアの配置とかも計算してると思うんです。そうやって日常の空間を楽しんでいる姿にインスピレーションを受けました」

ここはもともと外国人向けのマンションで、絨毯敷きのリビングをはじめ、もっと重厚感がある部屋だったそう。しかし入居に際して「チーク材」と「白」を生かした井川さん好みのクラシックな雰囲気の部屋にリノベーションされています。

「北欧やアメリカのヴィンテージ家具が合う部屋にしたかったんです。仕事でフィンランドを訪れた際には、大好きなデザイナーのアルヴァ・アアルトの自邸を見に行って、庭の木々とインテリアの融合のさせ方などを研究しました。特にこだわったところですか? 一番は床のパーケットフローリングですね。北欧でも昔から使われている様式で、独特のクラシックな風合いが大好きなんです」

リノベーションでより軽やかさと温かみが感じられるようになった部屋には、数々のヴィンテージ家具が完璧な調和で配置されています。中でも井川さんのお気に入りは、アアルトの1950年代のダイニングテーブルです。

「チークトップのものは今となってはかなりレアですね。天板の幅からはみ出るように伸びた足とか、この時代のものにしかないディテールもたまりません。時を超えて受け継がれ、時代の変化を感じられるのはヴィンテージ家具ならではの喜びですね。」

そんなテーブルの上で存在感を放つのが、切り花を生けたケメックスのコーヒーメーカー。本来はコーヒーメーカーですが、透明なボディ、安定感のあるフォルム、天然木の取っ手……たしかによく見れば、植物とマッチしないはずがないと気付かされます。井川さんにかかれば、クリーマーやピッチャー、ファイヤーキングのキンバリーマグすらも、植物を植える器として部屋を彩ることになるのです。

あくまで日本人の暮らしに合うものを

 

井川さんのご親族はかつて、北欧の家具や食器の輸入代理店をされていたそう。実家でもTEEMAの食器を愛用するなど、幼い頃から北欧文化が身近にあったといいます。さらに興味は北欧にとどまらず、アメリカにも広がり、それを決定づけたのは少年時代に惹きつけられた映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。

この頃から今の仕事に繋がる素地があったのかもと振り返る井川さん。実際に自らのお店「DEALERSHIP」(高円寺)をオープンしたのは27歳のとき。

 

「欧米文化への憧れと輸入雑貨への興味はずっと持ち続けていました。“いつか自分でお店を”と考えるようになってからは、大学で経営と貿易を専攻し、小売業界に就職して店舗運営を学び、自然と自分の夢を叶えるためのルートを進んでいました」

井川さんは現在4つのお店を展開。その中で吉祥寺の「free design」は、幾度かのリブランディングを経て、現在は井川さんを魅了した北欧アイテムを中心にセレクトしたショップとなっています。

 

「北欧の生活スタイルや考え方を取り入れると、日常がこんなに豊かで素敵になる。僕自身が現地で体験したり、日々の暮らしから得た感覚をお店に反映させています。ポイントは、メイド・イン・北欧なら何でもいいわけではないということ。あくまで日本人の暮らしに馴染むものをという視点を大切にしています」

「お店に出す前のヴィンテージ花器に植物を生けたりもしますし。実際に自分自身でも試した植物の組み合わせをお客様に提案することもありますよ」

 

もしかするとこのご自宅も、そんな井川さんのお店づくりの視点が結実した、もうひとつのショールームと言えるかもしれません。

予期できないことが面白い

 

ヴィンテージ花器と植物に囲まれた暮らし。井川さんにとってその魅力は何なのでしょう。

「お気に入りの器にお気に入りの植物を組み合わせるというのは、本能的に楽しいんです。じゃあなぜ楽しいのかと考えてみると、おそらく自分が予期しない変化や化学反応がたくさん起こるから。こんなところから芽が出てきているんだという、植物が日々起こす小さな成長もそうですし、器と植物の組み合わせもそう。いい意味で自分のコントロール下にない、小さなサプライズの連続が僕をわくわくさせてくれるんだと思います」

観葉植物や多肉植物のセレクトは井川さんご自身によるものですが、部屋のそこかしこで咲く生花たちは、奥様に選んでもらっているのだとか。

「北欧のいい花瓶が手に入ったりすると、『これに合いそうなお花、お願いします』って妻にお任せするんです。そうするとどんな花を選んでくれるのか、待ってる方も楽しいですからね。それにほら見てください。お花を選ぶセンスも僕よりずっとあるんですよ(笑)」

 

日々を豊かにする、小さなサプライズ。それは他愛もない日常の中に潜んでいるのかもしれません。