植物とファッションスタイリングの、ちょっといい関係

女性誌をはじめ、広告やカタログ、タレントのスタイリストとして活躍する福田麻琴さん。華やかながら多忙を極める業界に身を置く彼女に、暮らしの中に散りばめたグリーンの効能や楽しみ方、また福田さんと植物の“意外な過去”も伺いました。

寝に帰るだけの家から、暮らすための家へ

 

住まいの中に植物を積極的に取り入れるようになったのは、お子さんが生まれてからだという福田さん。それまでは早朝からの撮影、夜の打ち合わせ、深夜の会食など、スタイリストとしてめまぐるしい日々を過ごしていました。

「今思うと本当にむちゃくちゃな生活でしたが、それが当たり前でしたし楽しかったんです。もちろん、今より体力があったというのもあるんですけどね。当時の家はあくまで寝に帰るだけの場所。とても“暮らす場所”とは言えませんでした」

 

その頃はインテリアにこだわるよりも、洋服やバッグなど、自分で身につけるものにお金を使いたいという考えがあったそう。

 

「当時は、外でスタイリストの仕事をしている自分がすべてだったんです。でも結婚して、子どもが生まれて、執筆の仕事もするようになり、自然と家にいる時間が長くなりました。あと子育てをしていると、夜に寝て日が出る時間に起きるというふうに、生活リズムが整っていきます。そうして自宅はちゃんと生活するための場所だという考え方にシフトしていき、少しずつインテリアにも興味を持つようになりました。今は服やバッグを買うよりも、むしろ部屋のリノベーションがしたいくらい(笑)」

 

植物のお手入れは夫婦で分担

 

そんな福田さんのご自宅は、都内にあるヴィンテージマンションの一室。お子さんの成長もあり、同じマンションの別の部屋から、より広い今の部屋に引っ越されたんだとか。

「引っ越してくる段階では、この部屋はスケルトン状態。私の仕事柄、クローゼットを広くとってほしいとだけリクエストして、それ以外はすべて夫に任せてリノベーションしました。でも実際に住んでみると、もう少し私の意見を言えばよかったなぁ、なんて思ったり。それで夫とは、ここに住んで10年が経ったら私主導で再リノベーションしていいという約束をしているんです」

 

そう語るご自宅ですが、家族3人で暮らすのにちょうどいい大きさで、現状でも居心地のよさは抜群。ご夫婦のベッドルームと子ども部屋の間にリビングダイニングがあり、合理的ながら家族の息づかいがちゃんと聞こえるつくりになっています。そして、そんな空間のアクセントになっているのがグリーンをはじめとする植物たち。

 

「お店で買ってきたり、撮影の小道具だったものをいただいてきたり、基本的に植物を家に持ち込んでくるのは私です。ただなぜか夫が木を育てるのが得意で、大きな観葉植物は彼が面倒を見ています。いまリビングにあるエバーフレッシュもそうですが、少し元気がないとみるやベランダに出し、屋外で自然の風雨にさらすというのが彼の育て方(笑)。でもどんな植物も、その方法で不思議と生き返るんですよ」

 

植物からゆとりをもらう、朝の大事な3分間

 

大きなグリーンを育てることに熱心な旦那さんを、「彼は木に愛されてる」と笑顔で話す福田さん。そんなご自身は、普段どのように植物に触れているのでしょう。

「私は切り花をアレンジするのが好きですね。春はチューリップ、夏はひまわりというふうに、季節のお花をその日の気分に合わせて組み合わせています。この部屋の中で私がとりわけこだわっているのは、書棚の上の植物かな。今日はグリーンのバラですけど、アスティエの花瓶に合わせて白を基調にしたり、逆に思い切りカラフルな花を生けてみたり。ここはキッチンからよく見える場所なので、私の好みでいろいろと雰囲気を変えているんです」

リビングでは書棚以外にも、家具の上の一角をグリーンスペースとして上手に活用しています。テレビ台の隅には、福田さんが「朝のミニ癒しコーナー」と呼ぶスペースが。ここには小さなサボテンや、丸い葉のペペロミアオイデスといっしょに、お香やルームフレグランスが並びます。

「忙しい朝のちょっとした2、3分。ここでグリーンにお水をあげたり、葉の成長を見たり、その日の香りを選んだりしています。そんな些細なことにちゃんと時間を割けているってことが、私の心にゆとりを生んでくれる。だからこの3分間のひとときは、なるべく大切にしたいと思っています」

 

30歳、フランス留学で生き方をリセット

 

もともとアパレルショップの店員だった福田さんが、スタイリストのアシスタントになったのは22歳のとき。25歳で独立後は、冒頭のような多忙な日々を過ごしながら、第一線のスタイリストとして20代・30代を駆け抜けてきました。

「最近はこの家にあるものがすべて必要かどうか、自分が本当に好きなものかどうか、ひとつひとつ見極めたいという気分になってます。要するに断捨離ですね。40歳を過ぎ、子育てもだいぶ落ち着いたので、あらためてこれからの人生を考えるようになりました。やがて子どもが巣立ったら、誰かのためではなく自分のために一歩踏み出したいなと思っているので、そのために身軽になっておきたいんです」

 

断捨離モードの福田さんですが、過去にも一度、自分の人生を見つめ直して“リセット”した経験があります。スタイリストとして引く手数多だった30歳のときに、フランス留学を決断したのです。

 

「まわりには反対する人もいましたが、思い切って日本を出てみて正解でしたね。フランスに住みながら、イギリスやスペイン、モロッコなどいろいろな国へ旅ができた経験は、今の私にとってかけがえのないもの。またフランスではバイヤーのアシスタントをしたり、パリジェンヌのスナップを撮って原稿を書いたりもしていました。パリの人々のファッションを間近で見るようになって、最新のトレンドを追いかけることから、ベーシックな服をいろんな組み合わせで長く着る方向へと、自分の好みも変わりましたね」

スタイリングの仕事と植物と

 

フランスで得た経験を生かし、帰国後も再びスタイリストとして最前線に復帰。現在ではファッションのスタイリングにとどまらず、ライフスタイルの提案やブランドのディレクション、またエッセイストとしても活躍しています。

「スタイリストは、すでにある洋服を、組み合わせや着せ方を変えてより魅力的に見せるのが仕事。植物やお花のアレンジも似ていると思うんです。それで今日、思い出したことがあるんですよ」

 

そう言って福田さんは、スタイリストのアシスタントをしていた時代を振り返ってくれました。

「当時何人かのアシスタントで、師匠の家の仕事を分担していました。実はこのときの私、庭の手入れの担当だったんです。先輩アシスタントがロケで出払っている間も、せっせと芝の張り替えや花壇の手入れを季節にあわせてコーディネートしていたら、あるとき先生から庭がきれいだと褒められて。そのうち、たまたま来たお客さんから、うちの花壇も素敵にしてほしいと頼まれて派遣されたこともありました(笑)。もしかするとスタイリングに通ずる美的感覚が養われたのは、このときの庭仕事と無関係ではないのかも、なんてね」