植物屋 小田康平さん

[後編] 植物は、作為のない姿がもっとも美しい。

独自の視点でセレクトされた植物を取り扱う「叢(くさむら)」の代表であり、 今回MOLLISの監修を手掛けてくださった小田康平さん。 海外放浪、世界的アートコレクターとの出会い、植物と自分との向き合い方――。 紆余曲折を経て今や世界的に評価されるまでになった 小田さんの植物にまつわるストーリーを前編・後編に分けてお届けします。

永遠の素人でありたい

――小田さんの感性が多くの人に認められたんですね。でもなぜそこまでたくさんの人を虜にしたんでしょう?

僕が大切にしているのは、「いい顔してる植物」。植物=規格品と思っていた方たちに、そうじゃないという気付きを与えることができたんじゃないかと思っています。大量生産の植物、それが世の中に必要とされているのはよくわかりますが、みーんな同じ表情をしています。人間が配送のしやすさ、形の美しさばかりに囚われて、植物を植物じゃない何かにしている。だから目の肥えた人たちからすれば、面白くなかったんです。

 

――それが各メディアに取材されるきっかけにもなったんですね。

国内だけでなく海外メディアにも取り上げていただきました。叢で扱っているのは多肉植物ですが、僕自身、植物に関しては永遠の素人でありたいと常々思っています。素人ってすごいですよ。固定概念がまったくない。こうあるべきというのは、どこかの誰かがつくった価値基準。そういうものにすらまったく捕らわれず、純粋に自分が好きか嫌いかですべてを判断しているわけですから。

 

――その感覚やセンスはどこで学んだのでしょう?

実家が花屋だったとはいえ、サボテンの知識は本当にゼロ。普通は専門誌とかを見たりしますよね。でも僕はまったくそういうものに目を通さなかった。洋書が置いてある本屋にいき、インテリア、建築、ファッションといった別業界の雑誌をみていましたから。花屋のテクニックよりもむしろ、写真家の作品を見たりして、自分の中の感覚を磨いていきました。あとはアートコレクターさんの影響が大きいです。

 

――小田さんが手がける多肉植物をはじめて評価した方ですね。

叢を立ち上げた当初はとにかく暇だったので、その方のところに赴き著名なアート作品を見ながら、コーヒーを飲むという時間がありました。モノの見方、考え方、捉え方。とにかくたくさんの視点を僕に与えてくれたんです。第二の父とでもいうべき存在ですね。

小田さんが提案する「いい顔してる植物」とは

――小田さんのいう「いい顔してる植物」についてもう少し教えてください。

自分の植物を表現するときの言葉って何だろうって思ったとき、「いい顔してる植物」がでてきたんです。人間で例えるなら、畑を耕しているおばあちゃんや、マグロ漁をしているおじさんです。真っ黒に日焼けして顔もしわだらけなんだけど、その人の生き様が表情に表れている。表面的な美しさではなく、にじみ出る何か。僕はそういう人たちにあったときに「いい顔してるな」とリスペクトの意味も込めて思うんですが、植物も同じですね。人間の歴史が何千年レベルなら、植物は5億年以上の歴史がある。人類にとって先輩である植物がたくましく生きている姿って美しいって思うし、それが僕にとってのいい顔なんです。

――ここにある植物もみんな「いい顔」をしていますね。

植物には、過去、現在、未来がある。ここにあるサボテンもそう。接ぎ木されたものですが、育てていた人の思い通りにいかなかったのか、ほったらかしにされた時期があったはず。それでもこのサボテンは力強く生きている。接ぎ木されたものだから、どういうふうに育っていくかは誰もわからない。そこに発見や感動があり、思いもよらない変化というのも、植物の魅力のひとつだと思っています。ただ眺めるだけじゃなく、そういったストーリーも、一緒に楽しんでいただけたらと考えています。

 

――植物とどういう接し方をして欲しいと思いますか?

叢の植物は僕の価値観を表現したものです。それに共感していただくのももちろんうれしいですが、それにとらわれずフラットな気持ちで植物に対峙してほしいですね。僕とあなたの感じ方は一緒じゃなくても全然よくて、それがまた面白いと思っています。今回、僕が監修させてもらった「MOLLIS」の植物は、そんな植物の入門的位置づけとして捉えています。サボテンは育てやすい植物でもあるので、植物にまったく興味がない人も、このブランドをきっかけに好きになってもらえるとうれしいですね。

――叢の今後についても教えてください。

人に話すときは自分たちのことを「植物屋」と言っていますが、心の中ではまったくそうは思っていません。植物が軸ではありますが、それを軸に空間づくりやものづくりをしていきたい。また、僕はブランドを大きくして、従業員をたくさん雇いたいとかはまったく思っていません。従業員はもう少し増えるかもしれないけど、今のところは広島と東京のお店2つで充分。それよりもキチッと目の届く範囲で、ぶれない価値観を世の中に提案していきたいと思っています。

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